介護リフォームは、高齢者や介護が必要になった家族が安心して暮らせるように住宅を改修することです。
「これで少しでも親が暮らしやすくなればいいな」そう願って始めた介護リフォームですが、実際には思ったより使いづらく、かえって不便になってしまったという声も少なくありません。
介護リフォームは、ただバリアフリーにするだけでは十分とは言えず、家族の介護の状況や、将来の変化も見越して、慎重に設計することが求められます。とはいえ、初めてのリフォームで失敗を避けるのは簡単ではありませんよね。
この記事では、介護リフォームで失敗を防ぐためのポイントや具体例を現役大工の視点も交えてわかりやすく解説し、気になる補助金の使い方や注意点も説明しています。
家族みんなが過ごしやすくなる介護リフォームになるよう参考にしてみてください。
目次
介護リフォームで失敗しない!5つのポイント
ここでは、介護リフォームで失敗しないための大切なポイントを5つ解説します。
本人と介助者、両方にとって快適なリフォームを目指す
介護リフォームは、介護される方だけでなく、介助者にとっても快適な環境にすることにより、ストレスと事故の危険性も減らせます。
また介護される方が自力でできる行動が増えると、介助者の負担が減るだけでなく、介護される方の気持ちの負担も減らせるでしょう。
症状に合った介護リフォームにする
介護が必要な症状は、個人によって変わってきます。また症状の進行具合によっても変わってくるでしょう。
介護される方がどんなことに困っているのか、日常生活でできないことや、どんな動きを困難としているのかなど、悩みを洗い出し、本人の意見も聞きながら、その症状に適した改修するのが介護リフォームを成功させるポイントのひとつです。
例えば、手すりがあると便利な箇所、どんな高さがちょうどよいのかなど、日常の動きを介護される方と一緒にシミュレーションしてみると、適切な箇所を特定しやすくなりますよ。
専門家の意見を聞く
ケアマネージャーや介護士、リハビリ専門職(理学療法士、作業療法士)など専門家の意見も取り入れることは、介護リフォームを成功させるためにもとても重要です。
専門知識や経験豊富なケアマネージャーなど専門職からのアドバイスを生かせば、適切なリフォームプランが見えてきます。
我が家でも、父が手術後に体力が落ち、日常生活でケアが必要になった際、ケアマネージャーのアドバイスがとても参考になりました。
それぞれの症状に合ったリフォームを特定するのが、重要になってきます。
プランが決まったら、そのプランを実現できる技術力のある業者を選ぶことも大切です。
福祉用具専門相談員など、福祉関係の資格を持ち、介護リフォームの実績がある会社に依頼するのもよいでしょう。
補助金をうまく活用する
介護リフォームやバリアフリー工事をする場合、自治体の補助金や助成金制度や税制優遇措置を活用できるケースがあります。補助金を活用し、費用の負担を軽減できるので、積極的に活用することをおすすめします。
手続きには提出書類が必要になります。以前相談を受けた時に、手続き完了までに時間を要しました。ケアマネージャや施工会社に早めに相談し、必要書類の確認をおすすめします。
以下、代表的な補助金制度を紹介します。
- 介護保険受宅介護(介護予防)住宅改修費
介護保険制度には、要介護者を対象に自宅を改修工事する際に利用できる「居宅介護(介護予防)住宅改修費」という補助制度があります。
例えば東京都世田谷区では、
対象は「要支援・要介護」の認定を受けている被保険者の方。
介護保険非保険証に記載の住所の住宅改修(施設入所者は除く)であることが条件となっています。
事前申請制のため、改修工事の前に区に提出する必要があるので注意してください。
住宅改修の例は以下
・手すりの取り付け
・段差の解消
・床材などの変更
・扉の取り替え
・便器の取り替え
・上記にかかる付帯工事
となっています。
20万円の住宅改修工事の場合、負担割合が1割の方は保険給付額が18万円(9割)、負担割合が2割の方は16万円(8割)、負担割合が3割の方は14万円(7割)で、利用者の自己負担額は2万円(1割)、4万円(2割)、6万円(3割)となります。
※要介護状態区分の変動または転居により、再度支給される場合があります
参照元:https://www.city.setagaya.lg.jp/02061/online_tetsuzuki/2239.html
- 住宅特定改修特別税額控除
個人所有の住宅をバリアフリー改修工事の際、所得税の控除を受られる場合があります。
限度額は200万円となっていますが、こちらは要件等細かく指定されているので、国税庁の該当ページを確認されることをおすすめします。
参照元:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1220.htm - 市区町村独自の補助金
多くの市町村では、独自の介護リフォーム補助制度を設けています。各自治体によって、内容や支給額が異なっていますが、高齢者や障がい者の方が安全に暮らせるための改修工事に対して支給されることが一般的です。
東京都渋谷区の例を見てみましょう。
「住宅設備改修給付」として、65歳以上の要介護者・要支援者を対象に給付されるものがあります。
給付内容と限度額は以下のとおりです。
・浴槽の取り替え:37万9,000円
・車いす利用者がいる住宅の流しや洗面台の取り替え:15万6,000円
・車いす利用者が日常的に使う階段昇降機の取り付け:30万円
・上記の改修に付帯してかかる改修費用
費用は給付限度額の1割(工事費用が給付限度額を下回る場合はその額の1割)と給付限度額を超えた部分の全額
すでに工事をしている場合や、他の補助金などを受給している場合は対象となりません。
参照元:https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kenko/koreisha-seikatsu/koreisha-zaitaku/s_house.html
まずは窓口に事前に相談することをおすすめします。
本当に必要なリフォームをする
介護リフォームでは、本当に必要な箇所を特定し、改修することが重要です。
介護される方・介助者が共に快適に日々生活できるような箇所のみの改修とし、不要なリフォームで、予算をオーバーしたり、使い勝手の悪化に繋がるような改修工事にならないように気をつけましょう。
そのためには、実際どんな改修工事が必要なのか、各症状と照らし合わせて考えると失敗も減らせますよ。
また専門家の意見を取り入れることも大切です。
介護リフォームの具体例と失敗を防ぐポイント
介護リフォームで失敗を避けるためには、どんな介護リフォームが必要か知っておくとよいでしょう。具体的に計画する際には、担当のケアマネージャーや介護士など、専門家の意見を取り入れると、より必要なリフォームが特定できます。
症状によって必要な介護リフォームは変わってきますし、症状の変化の可能性も考慮するとよいでしょう。
国土交通省が公開している「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」も参考になります。高齢者が居住する住宅で生活するにあたって、配慮すべきポイントとその基準が紹介されています。
以下、介護リフォームの具体例とポイントを解説していきます。
ぜひ家族の症状や、自宅の状況と照らし合わせながら、改修する際の参考にしてみてください。
【トイレ】動線を考慮する
トイレは補助が必要な場合や、車椅子の使用では広いスペースやスロープが必要になってきます。また寝室の近くにトイレそのものを増設するなど、作り直してしまう方がスムーズな場合もあります。
まずは、トイレ内での動きを確認し、どんな高さに手すりがあったらいいのか、広さはどれくらい必要かなど動線を確認してみるとよいでしょう。
以下具体例を挙げます
- ドアを引き戸にする
トイレは開き戸であることが多いですが、杖や車椅子を使っている方の場合、開き戸は不便で、転倒の可能性があります。そこで引き戸に変えると転倒のリスクを軽減できるでしょう。
ドアを引き戸にしたいといった相談もよくあります。
開き戸を引き戸に変えるためのは、少なくとも扉2枚分のスペースが必要になります。
スペースの問題で、引き戸に変更できない場合もりますが、その際には、ドアノブ(丸ノブ)をレバーハンドルに変更するといった提案をします。レバーを押し下げるだけでドアを開け、開閉が楽になりますよ。 - 手すりを設置する
手すりを取り付けることで、トイレ内での転倒を防ぎやすくなります。また立ったり座ったりする際、身体の負担軽減にもつながります。
ポイントとなるのは、手すりの設置位置です。介護が必要な方にとって使いやすい位置(身長や車椅子との兼ね合い)と掴みやすい大きさ、形状を選ぶようにするとよいでしょう。 どのような手すりが使いやすいのか見極めるために、まずは手すりをレンタルするいう方法もあります。 - 和式トイレを洋式トイレにする
築年数が古い家は和式トイレを使っていることもあるでしょう。和式トイレは身体への負担も大きく、介助もしづらくなっているので、洋式トイレへの変更は、介護する際にも助けになってくれます。
実際トイレの相談も多くあります。
和式トイレは多くが入り口より一段上がったところに設置されていることも多いので、まずは床の工事から必要になります。
その際、段差の解消やスペース拡張についても相談するとよいでしょう。 - 介護スペースを確保する
もし可能であれば、介助者が一緒に入れたり、車椅子での移動もできるようなスペースを確保できると、毎回使用する際、介護者・介助者とともに、心身の負担の軽減にもなるでしょう。
例えば、隣が物置や減らしてもよい洗面スペースなどであれば、そこをトイレ拡張のスペースにすることもできます。
現場では要望に最大限応えられるよう、ずらせる柱があるかや、動かせる器具があるかなどもチェックします。
しかし拡張できない場合は、現状のスペースでいかに広く使えるようにするか工夫が必要になってきます。
配管移動の有無、また新設するトイレの大きさなどにより、手前のスペースがどれくらい確保できるか決まってきますので、まずは設計士や施工会社に相談してみるとよいでしょう。
【お風呂】転倒防止を防ぐ
お風呂を介護リフォームすることで、転倒のリスクや介助者の負担軽減につながります。
- 手すりを設置する
手すりが地けることにより、移動の際バランスがとりやすく、立ち上がったり座ったりするときの転倒のリスクを減らせます。
具体的には、浴室の縁やシャワーエリア、浴室の出入り口への設置をおすすめします。
手すりは、掴みやすい高さや、形状を選ぶことが大切です。 - 段差の解消をする
浴室の入り口に段差があると、つまずいて転倒する恐れがあるため、段差をなくし転倒する危険性を減らせます。
入り口付近の手軽な段差解消にはすのこの設置もおすすめです。また床材を滑りにくくソフトな素材に変更することも有効で、万が一転倒しても、その衝撃を和らげ身体への負担が軽減されるでしょう。
【玄関】出入りのしやすさに注意する
玄関は段差があることが一般的です。介護される方・介助者のどちらがわにとっても負担になります。
- 玄関までのスロープを設置する
段差からスロープに変更することで、歩行がしやすく、幅によっては車椅子での通行も可能になります。
もし、スロープの設置が難しい場合は、各段差を150mm以内に抑えるようにすると良いでしょう。
実際に受けたケースですと、お客様の筋力が落ちてしまった際、玄関での靴のはきかえが難儀になってしまったと相談がありました。
その際の動きをよく見ていると、段差の解消が必要そうでした。ただスロープをつけるにはスペースが足りません。
そこで、低めの椅子の設置と、今までなら楽に上がっていた土間から床までに140mmのステップを取りつけることに。
すると一人で靴のはきかえもできるようになり、とても喜ばれました。 - ドアを引き戸にする
一般的には開き戸であることが多い玄関ですが、扉を横にスライドさせて開閉するタイプの引き戸に変更すると、開閉が楽になり、介護される方の負担も減らせるでしょう。 - 出入り口を広げる
玄関の出入り口を広くすることで、車椅子のまま通行できたり、介助者にとっても2人横並びでも楽に通り抜けられる開口を確保すると快適に玄関を使えるようになるでしょう。 - 手すりを設置する
手すりの設置により、転倒の防止に役立つでしょう。また立ち上がるときや座るときにも身体を支えられます。
【室内床】段差解消と各部屋にあった素材を選ぶ
- 滑りにくい素材に変更する
浴室やトイレなど、水濡れで滑りやすい場所は、滑りにくい素材(ビニール系床材・ノンスリップフローリングなど)や衝撃を吸収する素材(クッションフロア・コルクフローリングなど)に変えると転倒のリスクも減らせ、万が一転倒の際にも安心です。 - 段差を解消する
段差のあるつまずきやすい場所にスロープを設置すると、車椅子での移動もしやすくなります。また敷居を撤去すると、床がフラットになり移動がスムーズになります。 - 各部屋にあった素材の床を選ぶ
汚れがつきにくく、拭き掃除がしやすいビニール系床材、汚れや衝撃にも強いクッションフロア、水に濡れても滑りにくいノンスリップ加工された床材など、適材適所の床を選ぶとよいでしょう。
【手すり】設置場所と形状を厳選する
各場所別リフォームでも重要なのは、手すりの設置でした。手すり設置の相談はよくあります。ここでは失敗しない手すり設置についてより詳しく説明しますね。
- 手すりの太さに気をつける
多くの手すりメーカーでは手すりの太さが選べ、だいたい太さの目安は32mm~35mmとなっています。
手が小さい高齢者が握りたい場合は太すぎない径を選ぶことが大切ですが、横方向の手すりに関しては、ある程度太さがある方が良い場合もあります。用途によって適切な太さを選びましょう。 - 手すりの設置高さに気をつける
床から75〜85cmが標準で、使用者の肘の高さが基準です。
使用者の身長や車椅子で使用の場合、それに合わせて調整しないと転倒リスクが高まります。 - 手すりの形状を選ぶ
丸型(直径3.5cm前後)は握りやすく、D型(楕円形)は手のひらにフィットし安定感があります。浴室など濡れやすい場所では、凹凸付きのすべり止め形状も有効です。 - 手すりの設置場所に気をつける
必要になりそうな場所に手すりをつけたが、実際は使わなかった。手すりをつけ過ぎて、車椅子や介助者の邪魔になってしまった例などもあるため、設置場所は厳選しましょう。 - 壁裏の状態に注意する
手すりを設置したい箇所の壁裏に体重を支えられるだけの下地がない場合が現場ではよくあります。
この場合は、しっかりと下地を補強し、安心して体重をかけられるように施工してもらいましょう。
各介護リフォームの費用相場
場所 | リフォームの内容 | 金額相場 |
---|---|---|
和式から洋式 | 20〜50万程度 | |
トイレ | トイレの室内拡張 | 10万〜30万円程度 |
段差の解消 | 1万〜10万程度 | |
手すりの設置 | 3万〜10万程度 |
浴槽の交換 | 50万〜100万円程度 | |
浴室 | 滑りにくい床材へ変更 | 10万〜20万円程度 |
段差の解消 | 5万〜25万円程度 | |
手すりの設置 | 3万~10万円程度 |
引き戸への交換 | 20万~30万円程度 | |
玄関 | スロープの設置 | 10万〜20万円程度 |
手すりの設置 | 3万〜10万円程度 |
*あくまで目安であり、建物の状態や範囲下地補強が必要かなどにより金額の変動があることをご了承ください
介護リフォームの必要性
独立行政法人国民生活センターによると、医療機関ネットワークへ報告された平成22年12月から平成24年12月末までの65歳以上の事故のうち、住宅内で起こった事故は、なんと65歳以上の事故全体の77.1%を占めています。
原因として最も多かったのは転落、次いで転倒となっていますが、
転倒などによる事故は、適切な介護リフォームで予防できます。
自宅で危険と思われる場所を把握することで、介護リフォームをする際の参考にできるでしょう。
介護リフォームよくあるQ&A
いさ介護リフォームをしようとする際、やはり費用のことは気になりますよね。ここでは介護リフォームで使える補助金にまつわるよくある質問と回答をまとめました。
専門家の意見も参考に家族みんなが快適に過ごせる介護リフォームを目指しましょう
介護リフォームは、介護される方だけでなく家族全員が快適に過ごせる住環境づくりが大切です。手すりや段差の解消、滑りにくい床材など、日常動線に合わせた設計が安全性と暮らしやすさを高めます。
ケアマネジャーや専門業者の意見を取り入れながら、将来を見越したバリアフリー計画を立て、介護リフォームでより安全で快適な住空間にしましょう。
介護保険で住宅改修(手すり設置など)を申請できる回数は、回数に制限はありませんが、支給金額の上限(20万円)があります。
支給限度額は20万円まで(支給は1割~3割負担後で実質約18万円分)
-例:1万円の工事を20回、10万円の工事を2回など、内容と金額次第で柔軟に申請可能です。
参照元:https://www.mhlw.go.jp/general/seido/toukatsu/suishin/dl/07.pdf?utm_source=chatgpt.com